花の百名山で有名な秋田駒ヶ岳と森吉山等の植物を31名で3日間観察した。前夜までの天気予報は雨と曇りが猫の目のようにころころ変わり、一喜一憂したが、初日の午後に少し降られただけで、後は晴れか曇りであった。おかげで数多くの可愛らしい高山植物や冷温帯地域で日本海要素をもった植物などを観察出来た。
1日目:乳頭温泉郷付近
11時過ぎに乳頭温泉郷休暇村から、胸高直径が70〜90cmもの大木が混じるすばらしいブナ林に入った。沢べりや林縁には清楚な青い装飾花を付けたエゾアジサイ、白い大きな花序のヤマブキショウマやオニシモツケ、車輪のような葉のヤグルマソウ、古に繊維を採集したアカソなどが生育していた。林内には姫筍のチシマザサ(ネマガリダケ)、山菜の王様といわれるコシアブラ、アカイタヤ、オオバクロモジ、赤い実を付けたヒメモチやエゾニワトコ、エゾユズリハ、ヒメアオキ等の木本類やウゴツクバネソウ、エンレイソウ、ユキザサ、トチバニンジン、オニノヤガラ等の草本類、シラネワラビ、オシダ、ヤマソテツ、ヤマドリゼンマイ、ホソバナライシダ等のシダ類が生育していた。そのうちに青い花のタチギボウシや黄色い花のミズギクなどのお花畑が見えてきた。空吹湿原である。ここには大きな葉を付けたミズバショウが生育し春先の純白の花を咲きそろえた風景を想像した。
2日目:秋田駒ヶ岳
ホテル近くからの登山バスで朝8時40分過ぎに秋田駒ヶ岳八合目に到着し、9時頃から登り降りの登山客に迷惑を掛けないことをモットーに、西側から登る新道コースを登りながら観察を始めた。普通だと1時間程度で登れるあみだ池までを約2時間半かけて観察した。登山道脇の低木地帯には日ごろ見慣れないミヤマヤナギ、ミヤマハンノキ、ミヤマザクラ、マルバシモツケ、ナナカマド、コミネカエデ、ミヤマホツツジ、オガラバナ、ハクサンシャクナゲ、クロウスゴ、ウラジロヨウラク等の木本類が生育していた。
足元にはハクサンシャジン、ノギラン、アオヤギソウ、ヤマハハコ、モミジカラマツ、オニシモツケ、シロバナノハナニガナ、ウゴアザミ、ウメバチソウ、エゾシオガマ、ホソバキソチドリ、ヒメタケシマラン、ミヤマコウゾリナ等の珍しい草本類が生育しており、一つ一つ観察しながら登るには時間が掛かった。
あみだ池の周りではハイマツ、キャラボク、ヒロハユキザサ、コタヌキラン、イワオトギリ、イワテトウキ、コメバツガザクラ、オンタデ、ミヤマウスユキソウ等を観察した。昼食後にあみだ池小屋脇に広がる浄土平に入ると、遅くまで積雪が残っていたと思われる北斜面にチングルマのお花畑が広がり、歩道脇にはウサギギク、エゾツツジそしてヒナザクラが咲き乱れていた。
帰りはシャクナゲコースを歩いた。焼森の大きな砂礫地には花が終わったタカネスミレや花盛りのコマクサが沢山生育し、また薄紫の花を沢山つけたイワブクロの株がところどころに見られた。八合目には14:30頃到着し、14:40の登山バスで下山した。
3日目:森吉山
田沢湖高原温泉郷のホテルを6:50に貸し切りバスで出発し8:30に阿仁スキー場に到着。8:45から運行を始めたゴンドラで順次山頂駅に向かう。9:20頃から尾根をめざして登り始めた。花序を付け始めた薄緑色の大型草本はヒトツバヨモギの群落、赤い実を付けたアカミノイヌツゲ、尖ったハート型のような実を付けたシラネアオイ、オレンジの花を付けたクルマユリに出迎えられ尾根に到着。
尾根筋にはところどころに、融雪を水源としていると思われる湿原が各所に見られるようになった。湿原には黄色い花が可愛いキンコウカ、タチギボウシ、5mmほどの白い花を咲かせているモウセンゴケ、イグサに似たヒメホタルイ、すでに小さな桃のような果実を付けたヒナザクラ等が生育していた。 森吉山山頂で昼食し、往路を下山し15:00に貸し切りバスで田沢湖駅に向かった。
(観察種の詳細な目録は、紀行文とともに2018年5月発行予定の「横浜植物会 年報47号」に掲載いたします。)
写真:渡辺重彦 文:篠原康之
観察指導:井上香世子、佐々木シゲ子 担当:○篠原康之、遠藤康彦、中村洋一