― ホソバタブの観察とクスノキ科の匂い ―
報告・記録 中村僉雄
本日の観察会は、曇り時々晴れの絶好の日和となった。クスノキ科の匂いとホソバタブの特徴を説明するため、集合は少し早めの9時30分である。遅れる人のことを考えて、駅前で少し解説をしたが騒音のため、静かな高久神社境内に移動し続きをすることにした。
クスノキ科の特徴は、色々有る。誰でも思いつくのは@クスノキ科の匂いである。これが、本日のメインでもあるが、どの種にも、樟脳の匂いがするわけではない。強い匂いの種から匂いの無い種もある。含有成分が違うので匂いも種によって色々である。次は、A3行脈である。これがあれば、クスノキ科と見当はつくが、どちらかというと、カゴノキの様に羽状脈の種のほうが多い。次は、B混芽である。タブノキやホソバタブの様に混芽(冬芽の中に、花芽と葉芽がいくつか入っている)になっている種があるが、混芽を造らない種のほうが多い。というわけで@ABは、クスノキ科だろうなと見当は付くが、決定的とは言えない。ではクスノキ科だけで他の種にはない特徴はというと、C雄蕊の葯が弁開することである。葯(4室の種と2室の種がある)が成熟すると、窓のように弁が上向きに開き花粉を放出するのである。沖縄などに生えている蔓性の寄生植物であるスナヅルは、どう見てもクスノキ科と思えないが、葯(2室)が弁開するので同科となる。では、クスノキ科の種の特徴と匂いについて解説してみよう。本日は、長谷川義人先生が、標本と生品を持ってきてくださったので、それを加えての解説である。
A、シナグスモドキ(長谷川氏標本)絶滅危惧1A類(CR)なので珍品。<香りは不明>。
B、クスノキ(生品)樟脳の強香。<全員に配布し匂いを確認する>。
C、ニッケイ(生品)シナモンの強香。<全員に配布し匂いを確認する>。
D、ゲッケイジュ(生品)ローレルの強香。<B、C、Dは、3種の葉を同時に配り匂いの相違を確認する>。
E、シバニッケイ(長谷川氏生品)樟脳の中等香。<1本しかないので数人だけ匂いの確認をする>。
F、タブノキ(生品)極微香。<全員に配布し匂いを確認する>。
G、ホソバタブ(生品)微香。<F、Gは、2種の葉を同時に配り、成分の違いによる微妙な香りの相違を確認する>。
H、アカハダクスノキ(長谷川氏標本)<文献には「クスノキ科特有の芳香」とある。葉脈が両面に突出する>。
I、シロダモ(生品)弱芳香。<全員に配布し匂いを確認する>。
J、ハマビワ(長谷川氏生品)ほぼ無香。<1本しかないので数人だけ匂いの確認をする>。
K、バリバリノキ(長谷川氏生品)極微香。<1本しかないので数人だけ匂いの確認をする>。
L、カゴノキ(生品)弱香。<全員に配布し匂いを確認する>。
次に、タブノキとホソバタブとの識別点を解説する。
タブノキとホソバタブはとてもよく似ている。だから識別点を見つけるのは難しい。
@若枝(ホソバタブは緑色だがタブノキは緑色で赤味を帯びているので、およその見当はつく)。
A冬芽(両種とも混芽で大きさに多少の違いがあるが識別は困難である)。
B花(少し大小があるが、これによる識別は困難である)。
C果実(種子の表面模様に多少の相違はあるが、これによる識別は両種並べてみないと困難である)。
最大の識別点はD葉にある。ホソバタブは、別名アオガシといわれるように、赤色色素が少ない。だから、新葉はタブノキの黄色〜帯赤色に対して、ほぼ緑色である。また、葉形はタブノキが倒卵状長楕円形であるのに対してホソバタブは、倒披針形〜披針形で細く、縁が波打っている。以上の匂いと識別点を参考にホソバタブを捜しに出発する。
高久神社から山麓の車道を歩き、レモンガス販売店の脇から高麗山に入る。少し歩くとコボタンヅルによく似たコバノボタンヅルが出現する。残念なことに果実をつけていない。先に進み「地獄沢」に入り、細い道を登るとホソバタブが数株生えている。これが、自生であるか、植栽されたものか、植栽品の果実が鳥などに運ばれ芽生えたものか、どうもよく分からない。もし自生であれば、高麗山が日本の分布の東限になるので重要である。再び細い急な登り道をオオアリドウシと樹皮に白紋をつけたカゴノキを観ながら登りきり、左折して「大堂」で昼食を採る。ここにはトイレが無いので、早めに昼食を済ませ、「湘南平」に向けて出発する。カゴノキとタブノキの幼木、シロヨメナ(白花)、シロヤマギク(白花)、ノコンギク(淡紫花)、ヤマハッカ(淡紫花)を観ながら先に進む。そして「湘南平」でトイレ休憩をして、来た道を少し戻り分岐点で左折し、大磯駅目指して下山を始める。古墳時代のお墓の前を通り、どんどん下っていき、舗装道路に出る。右側に、トネアザミ(紫花)とオオバクサフジ(紫花)、右側にタブノキの列が続く。その中に、ヤブニッケイの株がいくつか混じっている。再び右側を見ると、民家の塀にオオイタビがびっしり生えている。「イタビとはイヌビワのことで、イヌビワに似た葉で蔓になるのをイタビカズラ。それより大きいのは、オオイタビ。」と説明しながら先に進み大磯駅に到達した。そしてここで流れ解散となった。
本日は、コバノボタンヅルにも出会えたし、ホソバタブの生えているところも確認できて、クスノキ科の多くの葉の匂いもかぎ分けられて、稔りの多い観察会であった。
当日観察した主な植物 (記録:中村僉雄)
○イチイ科:カヤ
○イヌガヤ科:イヌガヤ
○スギ科:アケボノスギ(メタセコイア)
○ヤナギ科:シバヤナギ
○クワ科:イヌビワ
○キンポウゲ科:コバノボタンヅル・アキカラマツ
○クスノキ科:クスノキ・ヤブニッケイ・ニッケイ・ヤマコウバシ・ダンコウバイ・クロモジ・カゴノキ・ホソバタブ・タブノキ・シロダモ
○ユキノシタ科:イワボタン
○マメ科:タヌキマメ・オオバクサフジ
○ニシキギ科:モクレイシ
○ムクロジ科:モクゲンジ
○クロウメモドキ科:ケンポナシ
○グミ科:オオバグミ
○セリ科:ウマノミツバ
○シソ科:ヤマハッカ・ヒキオコシ・オカタツナミソウ
○アカネ科:ニセジュズネノキ(オオアリドオシ)
○キク科:ノブキ・シラヤマギク・タイアザミ(トネアザミ)
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ホソバタブ |
カゴノキ |
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ヤブコウジ |
カラタチバナ |
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タヌキマメ |
ヒキオコシ |
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キチジョウソウ |
ヤクシソウ
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ヤマトリカブト |
サザンカ(野生) |
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